システム
快適な総義歯を作製するのに一番重要なことは咬合(噛み合わせ)の設定です。次に挙げるのが、印象(型取り)となりますが、この2つの作業を患者さん御自身でやって頂く作製法、簡単に説明するとこのようになります。
従来からの作成方法は一度でも義歯を経験した方なら分かると思いますが、口を開いて型を取り、ワックスを熱して柔らかくした物を噛み咬合を決定します。そうして出来上がってきた義歯を口に入れ、痛い部分、高い部分を削りだんだんと口にフィットさせていきます。
つまり大きめに作りだんだんと小さく調整していきますね。ややもすると悪循環となり小さくなりすぎてしまいます。こうなるともう最悪、口の中であっちに行ったりこっちに来たり上の義歯は落ちてくるし下の義歯は浮き上がります。我々はこの状態をスケートデンチャーと称しております。意に反し自由自在にスイスイと動き回り、もう食事どころではありませんね。
この義歯はビデオに登場している患者さんのものです。1998年に義歯作製後2007年にフライドチキンの骨を思いっきり噛んで人工歯を壊すまで1度も来院して頂けませんでした。
パイロットデンチャーシステムの場合は最初に比較的小さめに義歯を作製し内面を柔らかな材料で裏打ちし痛みを取り除きます。
下顎
開口法、閉口法それぞれに利点欠点がありますが私は閉口印象で可及的に大きく印象を採得するように心がけております。
上顎
機能印象ではありませんので実際の義歯は小さく作製しますが、大出力のオーディオで静かに音楽を楽しむ様な安心感があります。
通常の方法で咬合採得すると上下が触れ咬み込む時、反射的に脳が食物だと判断し下顎を左右に動かす運動が発生します。この様な馬蹄形のプレートを使用する事によりこの反射を抑制し中心位による咬合採得が容易となります。特に顎関節が摩耗により平坦化した高齢者に有効な術式です。
ここまでの術式は保険の範疇で総入れ歯を作製する際も全く同じです。
フラットテーブルには上顎の奥歯が当る場所に赤い印が技工士さんによって付けられています。
実際に口の中で青いカーボン紙を咬んで頂きました。赤い点と青い点が一致すると思わず自分自身を褒めてしまいます。いつもいつもこのように一致するとは限りません、所詮人間の仕業であります。しかしながらパイロットデンチャーシステムにおいてこの事はさして重要な意味を持ちません、たとえズレていても大きく逸脱していなければ神のみぞ知る真の中心咬合位へと収束していきます。仮にこの段階で一致していたとしても、それまでの悪しき習慣を引きずった犠制、見せかけの中心位かも知れません。
上顎義歯の奥歯は磁器製を使用し意図的に鋭利な形状にします。
そして下の奥歯の部分はプラスチック製の板状に設定、下あごが自由に動けるようにします。これを数ヶ月使用していくと平らだったプラスチック板には患者さん自身の噛み癖が完璧に圧痕として描写されて記録されます。あたかも新品の木製まな板が使い込まれるのに従い、包丁があたる部分が凹んでくるのに似ています。
粘膜や顎関節が病んでますと肉体的にも精神的にも思い切って咬むことが出来ません。このような場合直径10ミリくらいのシリコンチューブを1日20分くらい嚙み噛みしていただきます。 |